部屋のコタツで、発表100周年を迎えたばかりの「伊豆の踊子」を読み終えた私。物語の余韻が冷めないうちに、どうしても確かめたい場所がありました。
それは、踊り子が全裸で手を振っていたという、対岸の「共同浴場」です。
「よし、実際に見に行ってみよう!」
夜の静まり返った湯の町へと繰り出しました。
夜の静寂と、天然のライトアップ

玄関を出て外へ。振り返ると、部屋から漏れる優しい明かりが古き良き建物を照らしていました。

ライトアップというには少し控えめで、素朴な光。でも、それがかえって老舗旅館の風情を際立たせる「天然のライトアップ」になっていて、思わず見惚れてしまいます。
川のせせらぎだけが響く中、真っ暗な橋を渡って対岸へ。夜の冷たい空気が、読書で火照った頭に心地よく響きます。
物語の舞台、共同浴場へ
橋を渡り、右の方へ少し歩いていくと……ありました!
「共同浴場」です。

驚くほど素朴な佇まい。

男湯、女湯と入口が分かれています。
物語の時代から大きく変わっていないのではないかと思わせる、不思議な存在感があります。いや、手を振るのが見えたということは、当時はもっと開放感があったのかな。中に入ってみたいところですが、案内板には「湯ヶ野区民以外の方の入浴はご遠慮ください」との文字。残念ですが、ここは聖地として外から眺めるだけに留めます。
川端康成、もしかして視力がめちゃくちゃ良い?
さて、ここからが本題。浴場から、先ほどまで私がいた福田家さんの方を振り返ってみます。

「……うーん、見えることは見えるけれど、意外と遠い?」
物語の主役である「私」がいた福田家の榧(かや)風呂がどこなのか、暗闇に目を凝らしてみますが、はっきりとは特定できません。夜だからでしょうか、それとも昼間ならもっと近く感じるのでしょうか。
「川端康成、きっと相当目が良かったんだろうな……(笑)」
100年前の情景に思いを馳せつつ、少しだけ苦笑い。でも、この「距離感」を実際に体感できたことこそが、聖地巡礼の醍醐味です。
夜の「榧風呂」を独り占めする贅沢
冷えた体を温めるべく、宿に戻って「榧(かや)風呂」へ向かいます。
夜の時間は、なんとここが貸切で利用できるんです!
フロントで鍵を借りるような煩わしさは一切ありません。

入口の札が「ただいま空いています」になっていれば、それを裏返して「ただいま貸切使用中」にするだけ。この「信頼されている感じ」も、秘湯の宿らしくて素敵です。
というか、夜の時間帯に限らず、滞在中はいつ行っても「独泉(自分一人だけ)」状態でした!
「こんなに雰囲気抜群なのに、みんな一体いつ入っているんだろう……?」
と、不思議に思ってしまうほどの静けさ。贅沢にも程があります。
扉を開けると、湯気の中に浮かび上がる歴史あるお風呂。

昼間も素晴らしいけれど、夜の榧風呂はさらに陰影が深まり、雰囲気は最高潮に。

木の香りと温泉の温もりに包まれながら、物語の中に溶け込んでいくような、特別な時間を過ごしました。
露天風呂を経て、至福の眠りへ
榧風呂で芯まで温まったあとは、そのままの足で夜の露天風呂へも立ち寄ってみました。

星空を眺めながら浸かるお湯は、内湯とはまた違う開放感があって、これまた贅沢……。

ただただ、心地いい。そんな静かな時間をハシゴして、すっかり心も体も解き放たれました。
100周年の聖地巡礼、夜の散歩、そして極上の温泉巡り。
すっかり満たされて部屋に戻るころには、心地よい眠気が。

あんなに抗っていたお布団の誘惑に、今度は喜んで吸い込まれました(笑)。

おやすみなさい。
さて、次回は「朝の湯ヶ野散歩編」。
夜には見えなかった景色、そして「川端康成が見ていたはずの本当の情景」を確かめに、再び外へ向かいます!
つづく↓